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 →2.幼き姫と緋色の王子
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滅びの王子アムンセル

1.小さな春の来訪

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 甘く芳しい薫りに包まれた花の都。東に海、三方を山に囲まれた自然の要塞、穏やかな気候帯に位置する海洋国家ロアムに春の風が流れ込む。その海の端にほんの一筋の眩い光が差し込み、海に面した白亜の宮殿には昨夜のしめやかなる小雨の名残がきらきらと輝いている。
 日の出を待っていたかのように、街路に人々が顔を出し往来を行き交い始め、店先に繋がれたロバが眠そうに鳴きつつ馬草を食む。豊かな黒い大地には、キャベツが朝露を弾いて瑞々しいことこの上なく、刈り取られるのを待っていた。
 夜明けと共に始まるいつもと変わらぬように見える人々の生活。一年の始まりの春、何らかの変化を期待する人々に新しい風が吹き込む。

 港から見える水平線にゆっくりと日が上り始めた頃、その真っ赤で大きな太陽の手前に黒い小さな点があった。異変に気付いた漁師達は、手を翳して眩しい中の黒点を訝しがった。その点は、徐々に大きくなり船とわかった。銀色に輝く見慣れぬ船に驚いて、通りすがりの者たちも足を止め、港には見物人が増えていった。日が真上に差し掛かる頃、埠頭に溢れ返った人々が待ち構える中、その絢爛豪華な船は桟橋に到着した。
 何が出て来るのだろうと人々が見守る中、現れたるは、金銀象牙であしらわれた立派な輿(こし)。それは、四人の頑健な兵士に慎重に運ばれ、先に港に降ろされていた銀の馬車の台座に取り付けられた。轡をはめた白馬の馬が二頭、真新しく磨かれた蹄鉄の音を響かせながら石畳を歩き始める。その中には貴人が、おそらくは異国の王族が座しているのだろう。と、人々が思うが早いか閃いた。彼らは、我が国の第二王子に海の向うの遠国の姫が嫁ぐという噂を思い出した。

 生まれながらにしていわく付きの、あの王子に。



「ラダトリアの姫君のお越しです」
 お仕着せの家来が、重い扉より入りて冷たい石の床に膝をつく。
 輿は王の間にまで運ばれたため、王族や重臣達を驚かせた。貴族の女たちは眉を顰め、扇子で口元を隠した。輿のわきに付き従っていたひょろりと背の高い使者が、玉虫の羽根を縫い付けた七色に輝く簾(すだれ)をゆっくりとあげた。そこから二本の細い足がにゅっと出て振り子のように揺らすや否や、小柄な影が放物線を描くかのように軽やかに飛び出した。
 それは輿の中で乱れた髪を掻き撫でると、階段の上に座す王をきょとんと見上げた。一瞬ぽかんとした後、自分の膝元を見てドレスの皺や裾の曲がりを直そうとした。なかなか直らないとわかると、くるりと一回転した。ドレスをふわりと浮かばせて微笑むと、玉座に向かって駆け出した。今にも躓くのではないかと皆が危ぶむ中、彼女は軽やかにドレスの裾を両の指でつまんでお辞儀をした。
「わたし、リィシュナベルモナク」
 彼女は顔を上げてたどたどしくそう言うと、前に垂れた金色の髪をかき上げ背中に流してにっこりと笑みを浮かべた。
 彼女はきょろきょろと周りを見回していたが、次第に困ってきて肩を震わせ出した。人々が目を見開いたまま、顔を強張らせていたからだ。
 周囲の者たち――王族とその重臣達――は、呆気に取られて彼女を見つめていた。彼女の様子に心配した使者は玉座に座る王に目を向けた。ロアムの王クレオスもまた驚いていたが、使者の視線を感じ我に返ると、ゆっくりと立ち上がり笑顔を取り繕って、彼女に近づいた。そして、金髪の姫の頭の位置にまで膝をつけて屈むと、その小さな白い手を取った。
「遠方よりはるばるお越しくださった。リィ・シュナ様。歓迎いたします」
 クレオスの言葉にリィは安心し、微笑んだ。
 なんという手の小ささ、腕の細さだろう。背丈も自分の三分の一ほどもない。話には十三ほどの少女と聞いていた。それでも若いと思ってはいたが、これでは一桁間違っているのではなかろうか。いや、なかろうか、ではなく、絶対に間違っているのである。
 彼女はどう見ても、三、四歳の幼子(おさなご)だった。ラダトリアの王がかような年端の行かぬ幼女を送ってよこしたと言うのだろうか?対する王子は齢十九。成人の儀式もとうに済ませた青年の婚約者には年若すぎる。クレオスだけでなく誰もが思った。
 王は立ち上がり、周りを見回した。固まっている人々の顔ぶれに、王は違和感を覚えた。そして、思わず声を荒げた。
「して、アムンセルは?」
 その言葉に、第一王子のファルクムはびっくりして前に歩み出て左右を見回した。アムンセルがいないとわかると、体中から噴出し始めた汗を袖で拭った。
「あれ!王子は?」
 一同室内を見回して騒然とする。異口同音に洩れる戸惑いの声に、ファルクムは自分の息子の耳を掴んで引っ張り出した。
「コルネリオ!!」息子を怒鳴るファルクム。
「え!?知らないよ!」
 コルネリオは戸惑った。第二王子アムンセルは、ファルクムの腹違いの弟でコルネリオの叔父に当たるが同い年だった。彼らはファルクムの屋敷で共に育ってきたため、アムンセルに何かあるとコルネリオが問われるのだ。何かあると、というのは、このような場におけるアムンセルの出席率が異常に低かったためである。
「……あ、確か今日は狩りの日だ」コルネリオは、はっとして呟いた。
 アムンセルの婚約と知り、ここに来たものの、彼自身には伝わっていなかったと言うのか?それとも知っていてすっぽかした?
「狩りに出かけたら、三日は戻ってこないぞ!」ファルクムは大慌てで、使者を遣わした。クレオスはため息をついた。
 一族が皆揃う中でただ一人いない男、第二王子のアムンセルこそ、この幼い姫と婚約を交わす男なのだから。
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~ Comment ~

NoTitle

昔だったら、よくあるものですよね。
幼いころからの結婚って・・・
若すぎるか。。。
戦国時代は12,13で結婚とかもありましたからね。
王子の度量が試されますね。
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