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滅びの王子アムンセル

2.幼き姫と緋色の王子

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 朝露の乾き始めた新緑の草原を踏みしめ、厩舎に向かう男が一人。
 その足取りは軽やかで、若々しい生命力で満ちていた。獲物を撃ち取ることの楽しみを今から想像し、にこやかに厩舎番に挨拶すると、ブラシを受け取り栗色の馬の背を強く擦り始めた。馬は首を震わせ、長い尻尾を振り回して喜ぶ。手馴れた様子で馬を舎から出し、愛用の鞍を乗せ、鐙に足先を突っかけて跨る。
 彼が遠くを見やると、草原の果てから近づいてくる二つの影がある。
「やあ。遅いな」
「日の出とともにと言っただろ」
こげ茶と斑の馬に跨った二人の男が、口々に言いながら、男に近づいてきた。
「すまなかったな」男は軽く目を伏せて謝った。
「寝過ごしたか?」茶のハンティング帽を被った、深みがかった青毛の男が笑いながら訊ねた。
 二頭の馬はすでに息を切らしていた。男を待っている間、早駆けを競い合ったようだ。退屈していた様子はない。あとで、決着について私の前で揉めるのだろうと、男は薄く笑って答えた。
「宿直だったのを忘れていた。今しがた帰って来たんだ」
「宿直だって?お前が?」もう一人の、剣の柄に埋め込まれた緑の宝石が印象的な男は驚いて口を突き出した。
「その恵まれたご身分で、宿直とは。世も末だな」両手を翳して、唖然と口を開く仲間達。
「恵まれた……ねぇ」男は苦笑して、手綱を引くと拍車をかけようとした。
 三頭の馬が両の前足を上げて嘶き、男達も勇ましい声をあげようとした時、
「王子ー!!」背後から、全力で走ってくる者があった。
 振り返る三人の下に、使者は息を切らしながら飛び込んでくる。
「モルライ……どうしたんだ?」王子と呼ばれた男は、茫然と足元の男を見つめながら訊ねた。
「急いでお戻りください。王宮から使いの者が……。至急、参るようにとのことです」
 男は馬から飛び降り、被っていた帽子を脱いだ。帽子にしまわれていた真っ赤な長髪が、ふぁさっと広がり波を打つ。目の前で見ていたモルライが息をつくほど見事な緋色の髪だ。
「まさか……」
「御呼ばれか……」
 二人の男達は顔を見合わせため息をついて、王子を見やる。今まで待たせたのに、結局狩りに行かないのか。だが、彼自身肩を落としているので、責めるわけにもいかない。
「本当にすまない。二人で楽しんできてくれ」
 緋色の目が残念そうに訴える。年長の二人は、王子の肩を叩いた。
「また今度な」
 男は馬の手綱を従者に渡すと、草原を駆け屋敷へと戻っていった。



 王子アムンセルが謁見の間にたどり着くと、痺れを切らした大臣が地を滑るように駆けてきた。だが、彼の姿を見るやいなや固まった。狩人の服装そのままで入ってきたからだ。炎のように赤い髪を振り乱した王子に、冷ややかな視線が注がれる。クレオス王は、やむかたなしといった様子で手を振ると、もう勝手に進めてくれと言わんばかりに大臣を見やる。
 アムンセルは大臣が指し示す先の、立派な背もたれの肘掛椅子に座らされた女の子に目を向けた。年の程、三歳くらいだろうか。白い小さな顔に赤みがかった頬とぴったりと閉じられた桃色の唇。緩やかなウェーブのかかった豊かな金髪が肩に優しく垂れている。真っ青な大きな瞳は、まっすぐアムンセルだけを見つめていた。
「え?」
 立ち尽くすアムンセル。椅子から立ち上がった姫の視線は痛いほどだったが、なぜ自分を食い入るように見つめているのかわからない。
「え?……ではありませんよ」大臣が尚も詰め寄る。
「ラダトリアの第一王女、リィ・シュナ・ベルモナク様です」
 王弟ユーバリオが、甥のアムンセルの戸惑う様子をにやにやと笑いながら見ている。
「え……。ああ」
「ロアムの国にようこそお越しくださいました」
 彼は小さな姫の前に跪くと、父クレオスが先ほどしたのと同じような挙動の不審さで、その手を取って口付けをしようとした。
「だめ!」姫は、突然その果実のような愛らしい唇を開いて、手を振り払った。
 アムンセルは驚いて彼女の顔を覗いた。姫の眼にはあっという間に雫が溜まり、今にも決壊しそうである。彼はまごついた。
 ――私が泣かせたのか?
「ラダトリアでは、結婚されるまで口付けは禁止されております」
 幼子の後ろに立つひょろ長い男が、すました顔をして説明した。ロアムの言葉を流暢に話すが、その顔つきや服装からラダトリア人とわかる。
「……そうか」アムンセルは立ち上がって一歩下がり、彼女を見下ろした。
 ――ん?
 今、何と言った?……結婚、と聞こえたが。
 困惑の様子に堪えきれなくなったユーバリオが、腹を抱えて笑い出して言った。
「兄上!どうやら、アムンセルは何も知らされずにここに来られたようですぞ!」
 クレオスは弟の言にふがいなさそうに首を振る。驚き呆れた大臣に、「貴殿の婚約者だ」と教えられて、アムンセルは驚愕して再び彼女をまじまじと見た。
 ――え!?
 彼は、大臣に説明されてもしばらく何のことか理解できなかった。周りからざわめきが起こり、迅速に考えをまとめようとする。そうして、ようやくわかってきた。
 背丈も手足も自分の半分もないこの幼子が自分の妻になる、というのか。彼は言葉を失った。目が点になるとはこういうことか。二人が相対し、どうすればいいのかわからずに睨めっこしているのを背後の者達はくすくすと笑った。
 その嘲りの込められた笑い声を聞いて、リィは体を震わせた。アムンセルは、リィが周囲の冷たい眼差しと嘲笑に怯えているのに気付くと、クレオスの前に出て膝をついた。
「リィ・シュナ姫をお待たせしたこと、申し訳ございませんでした。皆様にもご迷惑をおかけしました。……つきましては、今後のことですが、私に姫をお世話させていただきたいのですが」
「無論だ。我々はもう、待ちくたびれてしまった。姫のことはお前に任せようと思っている。後にはお前の后になるのだからな」だが、手荒な扱いや無体な所業は許さんぞ、とクレオスは笑った。それにつられて、一族の者も笑った。
 父王の言葉を聞くと、彼はリィに振り返りその小さな手を握り締めた。
「……」一心に見つめる青い瞳は涙に揺らめき、助けを求めているように見えた。
 彼はぼそっと何事かを彼女に囁いた。それを聞き取れるものはいなかったし、聞き取れてもわかる王族の者はいなかっただろう。だが、その言葉を訊いた途端、姫の顔に安堵の色が浮かび、口元は何か言いたげに綻んだ。
「王宮をご案内したい所ですが、お疲れのようでいらっしゃる。早速、私の屋敷で休んでいただきましょう」
 彼はそう断言すると、誰かが止めるのも構わず、リィ姫を再び輿に乗せ、自分の屋敷へと先導してさっさと出て行ってしまった。
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~ Comment ~

NoTitle

政略婚自体は昔からありましたからね。
現代は自由恋愛ですけど。
封建的な社会だと、やはりこのように政略婚は多いのでしょうね~~。

。。。と読みつつ。
滅びの王子というタイトルからどうなるのか
楽しみにしております。
(*´ω`)

NoTitle

感想ありがとうございます。
年の差のある男女の恋愛をファンタジーで書きたかったので、このようになりました。
相手に会うまで、当事者の王子には何も知らされてなかった所が可哀想ですが。
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