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転生王女と赤い薔薇

+18+ 餌付けされた王女

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 船は岩礁に乗り上げそうになっている。ブレイブタウンの南西にある川を上ってセピア湖まで来られたのが不思議なくらいだ。セピア湖は、その名の通り時を経て色褪せた写真のように、精彩を欠いた色をしている。この湖に生息するイカの吐き出す墨のせいだと、ブレイブタウンの調査団は結論付けた。
 甲板の舳(へさき)には、レッドローズ船長とランウェルが並び立って、水面を見つめている。
「ふむ。そうか。牢獄でも住めば都と言うか」船長は穏やかな表情だが、顔色は冴えない。
「姫はだいぶ変わられました。高飛車で刺々しいところも減り、少なくともシャインは彼女に好意を抱いてお話しています」
「お前は?」
「僕は、船長の指示通り、努めて冷静に探りを入れています」
「ふふ。何かわかったか?」目を細めて、報告に耳を澄ませる。
「いえ。何も……。これと言って特別な感じは受けません。船長は何かお感じになられましたか?」
「いや。でも、変わっているな……。あれ以来、会ってないが」
 湖の向こうの山々が騒がしい。風が起こると、森から一斉に鳥たちが羽ばたいていった。
「風が強くなってきました。もうお部屋に戻りましょう」
 甲板の若者たちが心配する中、二人の男は屋内へと戻っていった。

◇◇◇◇

「別に不思議なことじゃありませんよ」
 シャインとランウェルは、私とよく喋るようになった。
「あなた方の魔法と同じような力を使っているだけです」
 すぐ後でランウェルは、喋りすぎたことを後悔した。
 知っているわ。巫術(ふじゅつ)っていうんでしょ。それも、私が前世で作った設定だから。ま、同じような設定を“念動力”といって、いろんな平凡な作家が小説のタネに使っているわけだけれど。とは、口が裂けても彼ら二人には言えないわ。でも、実際に見せてもらうと、驚きはあるものね。
 シャインは、リンゴを浮かして見せた。へえ、すごい、と私が感心していると、シャインはそのリンゴを私の手元にぽとりと落とした。にこにこ笑っている。
「え、くれるの?」
「だって、姫様。毎日、八宝菜でしょ?」
 まあ、劣化版八宝菜だけどね。この世界に中華料理はないのだが、私が八宝菜とか五目餡かけとか言っているから、覚えてしまったのだ。
「だけど……」
 私が遠慮しても、いいのと彼はリンゴを握らせる。本当にシャインは優しい子だ。ランウェルも目を瞑ってくれるようだ。
 そこへ、階段からがたがたと何かが降ってきた。おいおい。
「何をしているんだ!シャイン」
 スクイナフが猪のように飛び込んできて、弟の頭を殴った。
「オリビアは、果物が苦手なんだ。そんなことも知らないのか」
「なわけないでしょう。バカ」意地悪の下種(げす)男。レッドローズよりも愚かで性質(たち)の悪い男の登場よ。
「バカ?俺がバカだと?バカはどっちだ」
「はいはい」と流して、私はリンゴを齧(かじ)った。
「あ、姫様、包丁ありますよ」
「いいのいいの。こんな牢獄で、そんなことに気を使う必要ないわ」
「あなたも上手く馴染みましたね。この環境に」
「そう?私は松陰先生の教えに従っているだけよ」
「しょういん先生?」
「ええ。牢屋に入れられたのなら、牢屋でできることをすればいい。生憎、ここには何にもないから読書はできないけど、精神は鍛えられたわね……」
「どこかの偉い先生なんですか?」シャインに続き、ランウェルも興味を持ったようだ。
 ふふふ。二巡目の私は鼻を高くするが、これ以上のことは話しません。
「俺を無視するなよ。お前ら。って、おい。その箱は何だよ?」
「あ……」あらら、見つかっちゃった。
 小脇に隠していた蓋付きの木箱を奪い、中を開けるスクイナフ。
 そこにはビスケットやらチョコレートやらがぎっしり詰まっているの。
「おい。なんだよ。お菓子だらけじゃないか!お前ら」再び、シャインに殴りかかろうとするのをランウェルが止めて言う。
「僕たちじゃありませんよ」
「じゃ、誰だよ?」

 と、そこへサイザールがやって来た。
 新顔かって?いいえ、彼は超いい人。ここ一か月の間、彼だけは私を淑女のように扱ってくれた。まさしく紳士である。エメラルドのチョーカーをつけた痩せ型でうりざね顔の純和風な感じの男だ。
 皆似たような姿かたちをしているが、彼だけは渋谷で赤髪が大勢歩いていても三百メートル先からでも見つけられるわ。まあ、渋谷でなくてもいいんだけどね。私は少しでも見栄えのするようローブの皺を伸ばし、うっとりとサイザールを見上げた。
「もうすぐ到着ですよ、ミス・オリビア。下船の準備を願います」彼は忙しかったのか、それだけ言うと戻ろうとした。
「え……ええ!」やっと、この牢屋から出られるのかしら。嬉しい。
「おい。待てよ」私の態度の変化を察したのか、スクイナフは彼を引き留める。
「お前だな。菓子で餌付けたのはよお」
「餌付け?何のことです」サイザールは、怪訝そうにスクイナフの顔を見やる。
「ふざけるな。金魚だって餌付けした奴の人相を覚えるんだぜ」彼はサイザールの胸ぐらをつかんだ。この世界のスクイナフは血の気が多いな。一方のサイザールは落ち着いて、彼の腕を払いのけた。
「聞き捨てなりませんな。私が彼女を餌付けしたとでも?お菓子で心を惑わしたと?」
「そうだ。人質を優遇するなって、船長も言っていただろ。お前の行為は掟に違反している」
「はあ。では、ベイスンに着いたら裁判にでもかけてください。私は、ミス・オリビアがこんな暗くじめじめした所に閉じ込められて、食事もろくにもらえずひもじい思いをしていたのを見るに見かねたのです。私の行いは正しいと思いますがね」と、クールなサイザール。そこに痺れる、憧れるう。
 まあ、確かにお菓子をくれただけだけど、ちゃっかり餌付け調教済みでもある。
「言い訳かい。開き直りやがって」
「あなたの方こそ、もっと自分の心に素直になればよろしいのに」
「なっ」と、ここでスクイナフの顔面まっかっか。おサルのお尻もまっかっか。
「オリビア姫。船から降りられたら、もっと居心地の良い所で起居(ききょ)できるよう、レッドローズに掛け合ってみますね。こんな窮屈な所に長いこと閉じ込めてしまって、本当に申し訳なかった。私もいろいろ船長に話を持ち掛けたのだが、如何(いかん)せん、彼はまだ人間に疑心暗鬼なんだ」サイザールは私に向き直って、中世の騎士のように跪(ひざまず)いて言ってくれた。
「ええ、わかっていますわ」私は少し寂しそうに微笑んだ。
 何をわかっているかって?
 世間知らずの私を騙(だま)くらかして、船底の牢屋に幽閉(ゆうへい)した世界一ろくでもない男レッドローズへ復讐するには、まず彼の信用を得なければならないこと。信頼を築くには、おそらくちょっとやそっとの時間では無理だということ。
 それだけは。それだけは、わかっているのだから(にやり)。
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