スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←+19+ 下船に伴い →+21+ 白ゆりの雌しべ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 活動報告
  • 【+19+ 下船に伴い】へ
  • 【+21+ 白ゆりの雌しべ】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

転生王女と赤い薔薇

+20+ さよなら長い友達

 ←+19+ 下船に伴い →+21+ 白ゆりの雌しべ
「ランウェル、船にもう荷は残っていないか?」
 レッドローズは周りを見回して、彼に訊ねた。
「はい、確認しました」
「クルーも全員いるか?シャイン」
 副長のクインズは付け加えた。彼とはまだ話したこともない。
「はい」
「では、サイザール。船を隠しに行ってくれ」
 レッドローズが指示をすると、サイザールは船に戻っていった。
 一人でどうやって船を動かすの?と思ったら、巫術(ふじゅつ)を使うのだと、シャインがこっそり教えてくれた。ああ、所謂(いわゆる)念動力だわ。
 サイザールを除くクルーたち――三十人ほど――は、船着き場からさらに伸びる細い洞穴に入っていく。大人二人が並んで歩けるくらいの狭さだ。先頭にはクインズが、最後尾に船長レッドローズがいて、荷駄(にだ)を運ぶ者達を警護している。アジトまで目と鼻の先とはいえ、警戒を解かないのね。ランウェルとシャインの後に続いた私だったけど、背後に船長がいるのを感じて、また尻を蹴られるんじゃないかとビクビクしたわ。
 洞窟を三百メートルほど歩くと、列が急に立ち止まったので、私はランウェルの肩にぶつかった。
 すると少しずつ、前に進み始める。シャイン達の番になって、ようやくこの先で何が起こっているかが見える。最奥は少しばかり広くなっていて、地面に円陣が敷かれている。そこには見たこともない記号が描かれている。
 ――わかってはいたけどね。移動円陣(テレポート)。みなさん、これも巫術(ふじゅつ)でしてよ。
 円陣の上にシャインが両手をついてしゃがみこむ。そして、息を深く吸い込んで若干ため、数秒後にバッと目を見開いた。すると、瞳の中に炎が宿ったように見え、一瞬にして彼はどこかに消えてしまった。
「三回目にして出来るようになるとは、シャインも上出来だ」
「何度も往復して練習したのだろうね。えらいえらい」後からサイザールが駆けつけていて、レッドローズに相槌を打った。
「オリビア様はどうしますか?」ランウェルは戸惑って訊いた。
 私を誰が連れていくか、という話ね。移動には巫術を多く消費し、体に負担がかかるのよ。特に私は“お荷物”だから。
「あ、私はランウェル君かサイザールさんでお願いします」
 サイザールは愛想よく笑んだが、ランウェルは微妙な顔をした。あなたはそういうお年頃でしょうよ!照れ隠しってやつね。でも、そこが好きー。
 だけど、
「あんたには訊いてない」と、船長はにべもなく言うの。
 私、オリビアは無言の視線で「彼とはごめんだ」って訴えたんだけど、結局無視。
「あんたは俺と行く」だってさ。強がり言っちゃって。周りが心配しているわよ。
 私だって知っているのだから。レッドローズが本調子ではないことくらい。
「でも――」
「油断のならない女だからな」
 船長の土気色の顔が近づいてきて、私の腕をぐいと掴む。洞窟は涼しいのに汗ばんでいて、吐息も人より荒い。ふん。私が手を下さなくても、呪いにやられる運命なのかしら。
「動くんじゃないぞ」
「わかってるわよ」
 初めてじゃないんだから。
 否(いな)。初めてではあるわね。この世界の設定を作ったのが前世の私だというだけで、テレポートを知った気になっていた。
「邪魔だ。かがんでおけ」
 あの男ったら、私の膝の裏を蹴って這いつくばらし、上から覆いかぶさるようにして、私の首もとに両手をロックオン。絞殺(こうさつ)される家禽(かきん)の気持ちでしたわ。絵的に、滑稽コッコー。ええ。ダジャレを言いたい気分だったの。
 前世の私が書いた小説みたいに、出会った瞬間から両想いの兆(きざ)しとか因縁(いんねん)めいたものを感じるのだったら良かったナア。この人ったら敵意むき出しでさ――彼らだって赤い髪と瞳以外は人型なんだよ。猫型ロボットの猫との違いより、はるかに人間に近い生物であることは確かなの――、そんなに嫌いなら私に構わないでほしいのに……。まあ、牢獄に私を押し込めてからは、この人一度だって会いに来てくれなかったけどね。虚しさを感じるよ。
 レッドローズが目を閉じ、そして開けたと思われた――四つん這いだったから見られなかったけれど――時、私たち二人は草原にいた。彼はようやく私を立たせたわ。
 そこには、真っ青な空の下に萌葱(もえぎ)色の絨毯(じゅうたん)が広がっていた。柔らかな風に木立や茂みは絶えず揺れさざめき、鳥たちも引きも切らず囀(さえず)っている。陽光が燦々(さんさん)と地に降り注いでいて、手足が少し暖かい。緩やかな丘は幾重にも連なり、野花が咲き乱れ、蝶が飛び交っている。
 私は彼の腕を振り払ってとび出した。少し離れた叢(くさむら)をクルーたちが同じ方角に歩いているので、追いかけようと思ったの。向かう丘の先には日の光に白く光る石灰の岩山があって、そこが彼らの居宅になっているのを私は知っているから。どんな生活をしているのか、文章では書いた気になっていたけど興味津々なの。ここに来てまた、牢屋に入れられなければいいけどね。
「おい、あんた……」
 レッドローズが何か言ってるわ。うんざり。聞こえないふりをしていたが、追いかけてくるようだ。
「あんた……待てよ」
「うるさいわねえ。逃げやしないわ」あんたって何度も呼ばないでよ。
「……」
 私はずんずんと踏み出していこうとしたのだけど、レッドローズは無言で歩き出した私の腕を掴んで引き止める。
「なに?放(はな)して?」その手は何?放しなさい、野蛮人。私は王女なのよ。
「……かみ」
「え?何よ……」
「だから、髪……」男は少し深刻そうに口を曲げている。
「髪がどうかしたの?」
 いつも縦ロールにセットするのに使っていた杖を奪われて、牢獄生活中は髪を後ろで一つにまとめていたのだが、レッドローズは私の頭に手を伸ばし束ねていた麻ひもを取り払った。その麻ひもは、ドブネズミが齧(かじ)っていたブイに纏(まと)わりついていたゴミ屑の再利用だ。
「ちょっと、やめてよ」
「あんた……気づいてないのか?」
「……え」
「俺も今気が付いた、日の光で。あんたの髪……色……」
 言われるまで、気にも留めてなかった髪。お城では毎朝、侍女たちにセットしてもらっていたのに。あの頃は念入りにお手入れされていた髪に指を入れる。絡まっていて全然指が通らないし、ガサガサで毛羽立っている。触るだけでわかる、枝毛に、先が散り散りになった毛。ノンキューティクル。栄養が足りてないのね。まあ、それは獄中でわかっていたことだけれど。
 ようやくその髪を一房指に絡めとり、目の前に持ってきた。陽光に金色に映える自慢の髪の、無残な姿を見て叫び声をあげた。
 それから先のことは、あまり覚えてない。遠巻きにクルーたちが驚いて振り返るのを見て頽(くずお)れ、多量に分泌された胃液がこみ上げるのを感じて、幾度か嘔吐(おうと)した後、私の意識は遠ざかっていったわ。くそ忌々(いまいま)しいレッドローズが私を心配そうに見下ろしている顔だけ、脳裏に残っている。
関連記事
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 活動報告
  • 【+19+ 下船に伴い】へ
  • 【+21+ 白ゆりの雌しべ】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【+19+ 下船に伴い】へ
  • 【+21+ 白ゆりの雌しべ】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。