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滅びの王子アムンセル

3.深き森にて酌み交わし

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 馬上の王子に続く絢爛豪華な輿とそれを取り巻く行列に、従者モルライは絶句した。
 そして、その輿から降り、地に足をつけた幼子に再び吃驚する有様だった。
「王子……。これは一体どういうことですか?」
 召喚の内容までは知らされていなかったモルライの戸惑いと驚嘆の交じり合う声は、後にも先にもこれきりだろう。
「ラダトリアのカイザリス王の第一王女リィ・シュナ・ベルモナク姫だ。これから、我が屋敷でお世話をさせていただく。当たり前だが、大切な国賓だ。粗相のないようにな」
 金工象嵌が施された美しい宝箱や黒松材の長持など次から次へと運ばれ、見も知らぬラダトリアの召し物を纏った小姓達が屋敷に入っていくのをモルライは呆気にとられて眺めていた。そんな従者の開ききった顎を指し、アムンセルは注意した。
「彼女は長旅で疲れている。風呂の準備をして、湯浴みして差し上げろ。その間に、部屋を……確か睡蓮の池に面した南向きの暖かい部屋があったろう、そこが良い。綺麗に掃除して荷を運ぶのだ。ベッドや箪笥は持ってきたそうだから要らないだろう。それと、ご馳走も用意しなさい」
「今宵は王子の分しか」
「私の分はよい。今から出かける」
「どちらに?」驚いて目を丸くするモルライ。
「オルジュとキーナの元に」
「何ですって?」
 略称で気安く呼ばれる二人は、午前中に王子を残して森深く分け入っていった彼の友人だった。リィ・シュナ姫がいらした初日に彼女を置いて、猟に出かけるというのか。モルライは目を白黒させて、アムンセルの顔をうかがった。
「うむ。心配するな。明け方には戻ってくる」
 モルライの肩を叩いて出て行きかけた彼だが、ふと振り返った。
「ああ、イエルを呼んでおけ。通訳が要るだろう」そして彼は消えた。



「十七にして親父様の別邸を屋敷として与えられ、今回はフィアンセ?恵まれ過ぎじゃないか」
 またしても、恵まれている、と言われてしまった。今日は二度目だ。キーナことクィナリーの口から発せられた言葉に、今度は彼も憂鬱にならざるを得なかった。
 アムンセルが彼らを見つけるのは容易だった。普段の狩りのコースを熟知していた彼は、一晩目をどこで過ごすかも見当がついた。渓流が注ぎ込む滝つぼの近くの沢で焚き火をしている二人の姿を見つけ、彼はほっと息をついた。兄弟ほどに親しい二人が、今日の収穫である兎を丸焼きし切り分けてパンに挟もうとしている時だった。
 二人はアムンセルの途中参加にも驚いたが、彼から事の次第を知らされると、目を剥いてびっくりした。
「よくまぁ、ラダトリアの王が年端も行かぬ娘を派遣したものだ。一体何を思ってお前に引き合わせたのか」
 そう言ったのは、一番の年長者クィナリー。王子より年が五つ上で、対等な友人関係の中でも他の二人に頼りにされる兄貴分だった。
「三歳の花嫁か。お前が哀れになってきた。勿論、そのお姫様もな」
 緑の宝玉を剣にはめた男は、その名をオールドといい、親しみを込めてオルジュと呼ばれていた。彼はくすくすとしていたが、次第に酒の力も加わって笑い声が大きくなり、とうとうげらげらと笑い出した。あまりに突拍子もない話だからだろう。
 クィナリーがこの歳で貿易商人として一代で財を築いてきたのに対して、オールドは名門貴族の出身で大臣の父を持つ三男坊で、努力や苦労とは無縁の男だった。そのような正反対の二人なのに、不思議と仲の良い――ある意味悪い――兄弟のように馬が合うのだった。末の弟分のアムンセルは身分は一番高いが、箱入りで世間知らずが多分にあり、顔立ちの美しい実直な好青年で、オルジュに言わせれば「弄りがいがある」そうだが、この弟分の王子がいるからこの三人の結束はさらに固くなると、クィナリーは思っている。キーナは、笑いすぎだとオルジュの額を小突いた。
「しかし、言葉の問題はないのか?」
 ラダトリアのお姫様はまだ幼く、そもそもラダトリアの言葉さえ十分に習熟していないだろう。そして、遠く離れた異国のロアムの言葉とは文法も単語も異なる。オルジュとキーナは炎に照らされ赤く火照った王子の顔を覗いた。
「それは問題ない」
 新興国ラダトリアとの貿易を推し進めようと考えていたアムンセルは、数年前からラダトリア語の習得に励んでいた。また、彼がまだ小さい時に亡くなった母がラダトリアの言葉をいくつか知っていて、前々から興味を持っていた。彼の勤勉を知るキーナは、ほうと感心した。
 アムンセルは思案した。政略結婚は誰の考えなのだろうか。父だろうか?しかし、年齢差に無理がないか。兄ファルクムにはもっと、彼女の年齢に釣り合う若い王子もいるのに。ラダトリアの王は一体どのような意図で、私と姫の結婚を許可したのだろうか?今後、婚約と結婚をどう推し進めるつもりだろうか?



 沈黙が続いた後、彼は二人の友人に切り出した。
「今夜ここに来たのは、もう狩りを辞めようと思ったからなんだ」
「え!どうしてだい?」二人は驚いて同時に声を上げた。ふいに沢の周りの木立が風に揺れる。
「もしかして、幼い姫と結婚するからか?」
「ああ……」焚き火の爆ぜる音に染み入るほど、静かな、しかし決意を秘めた声だった。
「そんな……異国の姫だかに気を使わなくていいと思うぜ。休日の狩りはお前の一番の楽しみじゃないか」
 俺達にとっても、とオルジュはキーナの言葉に首肯する。お互いが気を使うことなく、狩りに夢中になって過ごせる大切な時間だった。
「そうなんだが。やはり、姫はまだ幼いし。私は仕事ばかりで余暇も少ない。休日は姫と過ごさねばならないと思う。彼女はまだ三歳だ。躾(しつけ)だってあるだろう。この国のしきたりだって教えなければならない」アムンセルはふっとため息をついた。
「躾もお前の仕事なのか?お前は彼女の父親になるわけじゃなかろう」
「そりゃ成長した暁はいただくだろうがさ!」オルジュの戯言に、真剣なキーナは彼の頬をつねった。
「リィ・シュナ姫を野放図にしたら、わがままに育ってレディになれないさ。そしたら、カイザリス王に顔向けできない」アムンセルは首を横に振って答えた。その面持ちは暗い。
「でもよ、奴は姫を捨てたも同然じゃないか。年端も行かない女の子を、若い男の屋敷に住まわせるなんてどうかしている。お前は向うを知らないし、向うもお前を知らないんだろう?」つねられたオルジュはその手を払って言った。
「ああ。顔を合わせたことも、口をきいたこともない」書簡でやり取りしたことも当然ない。
「まるで、人質……。道具だな。しかも、ロアムでトラブルが起こるのを待っているかのようだ……。政略結婚は誰が最初に提案したんだ?」嘆息し頭の後ろで手を組むキーナ。真剣な面持ちだ。
「わからない……」アムンセルは頭を抱えた。
「親父さんに訊けばいいじゃないか」キーナは、そんなことも出来ないでどうするといった感じで、アムンセルの背中を叩いた。
 キーナの言う通りなのだが、アムンセルの思考はそこで停止してしまった。なぜなら、父王クレオスと対談の時間を取っても、きちんと話が出来たためしがないからだ。クレオスは何かと彼の願望や要求を聞いてくるのだが、願いを言ったところで叶った覚えがない。父はいつも説明不足で話を進めていく。今回の政略結婚のように。だから、アムンセルは父と話をするのが億劫になっていた。
 しかし、父王には事後の説明責任くらいはあってもよいはずだ。今回の結婚のことばかりは、彼の人生を大きく変える重大事なのだから。
「でもよ、お前は肝心な所で不器用だからな。周りのお膳立てが無けりゃ、生涯結婚出来るか知れないよ」オルジュが小指を上げて横目で見やると、アムンセルは顔を赤らめた。
「たしかにそれは言えてるな。アムンは奥手だからな、ハッハッ」
 二人の男達は笑った。兄達は彼がまだ通過儀礼的行為を一度もしたことがないのを知っていた。それは、狩りや撃剣など彼の得意とする健康的なスポーツではなく、専ら夜を舞台とする男と女の睦み事であった。アムンセルは女を口説いたことすらない。そればかりか、未だに、幼くして亡くした母の影を捜しているとの噂までたつほどだった。彼はそんな気はなかったのだが、自分と同じ赤毛の女性を見かけると、目で追いかけてしまうのだった。
 ――それに……
 誰も口にしない言葉が、三人の頭に浮かんで消えた。アムンセルは目を伏せて黙り込んでしまった。
「まぁ……。あまり言い伝えを信じるな。アムン」
 一番気を使う年長のキーナが、アムンセルの彫刻のような横顔に射した濃い陰に一抹の不安を感じながらも、彼を慰めた。



――赤い髪は滅びの王子。最後の王となる。
 ロアムの王朝に古より伝わる予言の言葉である。
 ロアムの種族は概して、黒や茶の髪が多い。王族はこの言い伝え故、赤を嫌い、赤髪の花嫁を娶ることをしなかった。伝承により赤髪は滅びの色と疎まれ、ロアムの人種的にも赤髪は少数であった。
 だが、アムンセルの母は燃えるような赤髪だった。貴族の娘だったが没落し、王宮の踊り子をしていたころクレオスの目に留まったという。寵愛されて生まれたのが、彼だった。
 アムンセルの髪は母親譲りの緋色。眼もルビーを嵌めこんだ如く、炎のように輝いていた。王朝初の赤毛の王子の誕生に王族一同は戦慄した。赤は激情や狂気を含意していたので、激しい気性で王朝に滅亡をもたらすのではないかと誰もが心配したのだ。しかしながら、アムンセルはとても穏やかな性格であった。その顔つきも峻厳なクレオスに似るところは少なく、肌の白さや顔の輪郭、目鼻立ちが母の面影にそっくりであったため、クレオスは彼を召喚して愛でては、亡き女を懐かしむのであった。
「私は信じてなどない。周りが気にしすぎるのだ……」
 キーナやオルジュだって、そういう意味では赤毛を意識しすぎているのだ。もちろん自分も。
「それはわかるが。赤毛だからと自分をこき下ろして、結婚を諦めようとか、子を作るのを辞めようとは思うなよ」と、キーナは念を押す。
「結婚は、もう決まっているのだよ」ため息をつくアムンセル。
「そうだったな。クレオスも孫の顔が見たかろう」
「まぁ相手がその年では、待望の孫が産まれる頃にあの爺さんも生きてるかわからんがな」
 そう言って、オルジュは一笑に付した。不敬なことに他の二人もつられて笑ってしまった。
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~ Comment ~

NoTitle

ほほう。赤髪は滅びの王。
成程。不吉というわけですね。
|д゚)

確かに髪はその人を象徴するようなこともありますし、
髪で人柄を判断する人もありますからね。
そういうのは面白い設定ですよね。

NoTitle

髪の色(民族)による差別もあるでしょうが、彼の場合、王子のくせに母が娼婦だったことと、国を亡ぼすという予言のことが大きくかかわっているようです。
ファンタジーですからね。あんまり難しく考えても始まりません。

滅びの王子の方は、現在なろうでも更新を止めてます。話は先の方まで進んでますが、今月が殊に多忙なのと転生王女の方に興味が移っているので、そちらを優先して書いてます。
転生王女は、以前なろうに書いたもののIFverです。ハッピーエンドじゃなかったので今度はと思ってますが、主人公をいたぶるのが好きなので上手くいきません。
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