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滅びの王子アムンセル

5.真白き陽だまりの部屋

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 リィ・シュナ姫に割り当てられた南の部屋は、王子の寝室の次に広く、日当たりの良い部屋であった。奥の窓辺は睡蓮の池に面していて、今はまだ蕾だが、これから夏の終わりにかけて白い花が水面(みなも)に咲き乱れることだろう。
 二年前に父王に屋敷を与えられてから、この部屋には一度だけ足を踏み入れたが、ここは自分の部屋ではないと使わないまま埃を被っていた。
 ――ここには女性的な暖かさを感じる、思えば母のような……。
 そう感じて彼は母の記憶を辿ろうとしたが、悲しいことに上手く思い出すことが出来なかった。リィ・シュナ姫が来た時、彼女にはこの部屋が一番だと思った。陽だまりの柔らかい暖かさが、彼女の寂しさを慰めてくれるだろうと考えたからだ。
 睡蓮の部屋は綺麗に掃き溜められ、古ぼけた家具は片付けられ、ラダトリアから彼女と一緒に運ばれてきた家具・調度品が適当な場所に設置された。部屋の真ん中に白いレースの掛けられた大きな天蓋のベッドが置かれ、姫はその真ん中でちょこんと横になり休むのだ。家具やベッドは白と淡い桃色を基調としていて、金銀奇石で象嵌が施され、高価なものに相違なかった。睡蓮の部屋は瞬くほど美しく明るい部屋になったが、清潔すぎて人間味の薄い部屋になったことも否めなかった。
 王子が猟に出かけてしまった日、姫はどうしていたか。
 王子の屋敷に通されたリィ・シュナ姫は、そのまますぐに浴室へと案内された。湯浴みの時間は、姫の満足のいくものだった。大理石の浴室は大変広く、タイルは隈なく磨きこまれており、七種類もの風呂があった。露天風呂もあり、外の景色を見渡せる。庭の緑は果てがないほど広がっていた。彼女はこのような風呂を知らなかった。
 浴槽には色とりどりの薔薇を浮かべてもらったり、疲れた体を隅々まで侍女に洗ってもらったりするなどして楽しかった。お風呂から出たら美味しいご飯をいただいて、眠るだけと彼女は思った。優しい目をした王子のお話を聞きながらご飯を食べて、揺れない陸の上でぐっすりと眠るだけ。
 しかし、彼女が風呂から上がると、王子はどこにもおらず右往左往しているモルライの姿があった。彼は片言で姫に話しかけたが意思疎通が出来ず、姫は機嫌を悪くした。後から駆けつけたラダトリア通信使のイエルのおかげで、王子が狩りに出かけてしまったことを聞くと、狩り自体をよく知らない姫は王子が自分を置いてどこかに行ってしまったのかと、余計に不安になった。ロアムの一流のシェフが作った料理も喉を通らなかった。
 王の間では、皆が自分のわからぬ言葉で何か良からぬことを企むような面持ちでざわめいていた。そこへ入ってきた一際目立つ赤髪の王子だけがラダトリア語で「安心おし。何も心配ない」と自分に言い聞かせてくれた。その人が私を自分の屋敷に案内して、自分を置き去りにして出かけてしまうとは何事だろう。姫の不安も無理はない。
 睡蓮の部屋も夜になると、日中に満たされた陽だまりの優しさは掻き消え、底冷えする静寂の暗闇となる。室温も急激に下がり、ネグリジェに着替えたリィは冷たい大理石の床に体温を奪われ身震いした。
 ――寒い。恐い。
 何も知らない土地で、一人眠ることの寂しさ。侍女も下がってしまった。隣室ではイエルが待機しているけれども、彼は子供が嫌いなのかわからぬが素っ気無く、信用に足らない性格だとすぐにわかったので、彼に頼りはしなかった。立ち竦む彼女を襲う異国の冷気に、ただ体を震わせるしかなかった。

 明け方、赤い髪の王子が戻ってきたが、私を見捨てようとしたのではないかという不安や、怒り、寂しさ、悲しみは拭えなかった。昨日のように再び彼女の手を取って、今度は口づけをしようとはせずに、自分の頬に押し当てるまでは。
「……、君のそばにいるからね。寂しい思いをさせないように」
「これは君との約束」
「何もわからない私達だ。お互いを知ることから始めよう」
 彼女は心の中で何度も呟いた。「やくそく」と。
 アムンセルはリィ・シュナを彼女の部屋まで連れて行き、真っ白な天蓋ベッドの薄絹の幕をさっと開くと、彼女がそこによじ登り横になるのを見守った。羽根布団をそっとリィの体にかける仕草も優雅だ。
「イエルは君に不思議な力を使ったね。あれは君の国の“魔法”かい?」彼はしゃがみ込み姫の顔を覗いて訊ねた。その顔は微笑み、繊細な手付きで姫の髪を撫ぜる。
「……ええ」リィは少し緊張しながら答えた。王子の温かい手が自分の額に当てられた。
「本当に不思議な力だね。我々ロアムの民は、人を癒す力を持たない」アムンセルの赤い瞳が揺らめいた。リィは、その透き通った瞳がとても美しいと思った。
「白魔法というのよ。傷を治すの」
「へぇ。どんな傷でも治せるのかい?」
「うん……」
 彼女はまどろみ始めて、小さな欠伸をした。アムンセルも彼女に合わせてゆっくり呼吸をした。びっくりしないようにゆっくりと、彼は手を彼女の小さな手に重ねた。ぬくもりが伝わる。
「今度、教えてあげるわ」私はまだ使えないけど……。
 リィはおしゃぶりをするように口を尖らせて、そのまま眠りについてしまった。
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~ Comment ~

NoTitle

ほう。面白い話だと思います。
心と体を温める魔法。白魔法。
私もファンタジーを書いていますが
そういう概念が欠けていたのでとても勉強になります。
ヽ(^。^)ノ
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