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滅びの王子アムンセル

6.黒帽子の登城と王との問答

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 安らかな眠りを得られてから数日たち、リィ・シュナ姫の不安定な気持ちが一段落ついて、アムンセルは姫に王宮を案内することになった。王子は姫と共に馬車に乗り、海に面する高台の城へと向かった。
「その帽子を冠(かむ)る時は、髪をお団子にするの?」
 赤髪を結い上げ帽子で隠してしまった王子を見て、リィは思ったことをそのままアムンセルに訊いた。彼は苦笑して頷いた。
「城に行くとき、私は帽子を被るのだ」
 黒い帽子を目深(まぶか)に被って王宮に出入りするは、赤髪の王子アムンセル。
 彼だけは王の間においても帽子を被ることを許された一人だった。むしろ、人々の心を乱さぬために帽子を被るよう、王弟ユーバリオがクレオス王に提案し、アムンセルに勧告したのであった。ユーバリオはこの自分の提案を周りに誇らしげに語るのであった。アムンセルもこれにより、人々に嫌悪感を抱かせずにすむだろうと、ユーバリオは自身が感謝されてしかるべきとさえ思った。それだけ、王子の赤髪は人々を慄(おのの)かせたのだ。
 リィが来国した日は狩りを中断し急いで出向したため、赤髪を露(あら)わに王の間に立ってしまった――そのせいで控えていた王族達が一斉に扇で口元を隠した――が、普段は王宮において常に帽子を被っていた。それが赤髪で生まれた者の宿命(さだめ)なのだと彼は諦めていた。この、自分の体の特徴を否定されることも、彼が王子の身分を辞退したいと思う理由の一つであった。
「髪の毛を見せてはいけないの?」黒帽子は、すっぽりと髪を隠してしまっていた。
「赤はこの国では忌(い)み嫌われる色なんだ……」王子は懐から小さな姿見を取り出し、赤い髪の毛が一本でも出ていないかどうか確認した。眉と瞳の赤は隠せないが、それは仕方ない。しかし、男にしては口元もほんのり赤い。彼はそれも少し気にしていた。
「そうなの?」とても素敵な色なのに……。一房くらいはいいんじゃないの?とリィは思った。
「では、赤い服を着てもいけないの?」リィは赤いドレスが好きなのに、と彼女は頬を膨らませた。
「そこまでこだわりはしないけれどね」
 確かに言われてみれば、王の間に赤い衣装で参上するものはいなかった。赤は流血をイメージさせる色でもあるため、歴代の王や貴族達は意識的に赤を避けたのだ。
 ――赤い髪は滅びの王子。最後の王となる。
 何も知らない姫に、赤髪の言い伝えをいずれ話さなければならないと思うと、アムンセルは気が重かった。真偽はともかく、ロアムの者であろうとなかろうと、予言の受け取り方は人それぞれだ。
 もし、近い将来、悪意のある者から伝承――さらには自分の出自について――を吹き込まれて、姫が自分の夫になる者の髪を不吉なものと厭うようになったら、今後の生活がお互いにとって辛いものになりかねない、と彼は恐れた。



 王宮に到着すると、先に降りた王子は姫の手をとってゆっくりと馬車から下ろし、城に入った。城壁に沿って桜の木が植わっているが、春先のことでまだ開花していなかった。あちらこちらで、淡い色の蕾が麗らかな光に揺れている。
 リィを連れて衛兵詰め所や記録所、図書室、貴賓応接室、侍従控え室、食堂、調理場などを回ったところで、兄の第一王子ファルクムに出くわした。というより、兄は弟を探していた。兄の姿にアムンセルの顔が心なし曇った。
「おお、アムンセル。ここにいたか」
 茶色く長い立派な顎髭を蓄えたファルクムは、ようやく見つけたと片手を挙げて気軽くアムンセルに呼びかけた。兄の背後には、イエルも控えていた。彼は王子と姫を一瞥して、気乗りせぬようにそっぽをむいた。
 クレオスと正妃の息子ファルクムは、異母弟のアムンセルとは年の差十八ほど離れていて、いまや三十代後半の恰幅(かっぷく)の良い壮年だった。アムンセルと同い年のコルネリオの他、その下に三人の王子と二人の姫を持ち、王子達はアムンセルより王位継承順位が高かった。
「お前が今日ここに参るということで、父上が待っていたぞ」
「父上が……?」彼は一瞬尻込みしたい気持ちに駆られた。
「うむ。二人きりで話したいそうだ。……お前も何か訊ねたい事があるなら、二人の方がよろしかろう」
 ファルクムはそう言うと、小さな姫を見下ろした。彼は均整の取れた顔立ちに、笑顔という仮面を貼り付ける。悪意はないにしても、何を考えているか読み取れぬ顔だ。権力者の家に生まれた者は、心を閉ざす生き方を強いられる。ゆえに、気持ちのこもらぬ哀しい表情でもあった。
「父上とのお話の間、私が責任を持って彼女を見るよ」
 兄王子はそう言って、リィの前にしゃがみ丁寧に名乗ると、イエルの通訳をして彼女を連れて行った。



 一人になったアムンセルが重い足取りで王の間に行くと、父クレオスは彼の顔を見るなり、笑みを浮かべて立ち上がり、手を叩いて従者達を退室させた。
「アムンセル。遅かったな」クレオスは玉座の階段を降りようとしたので、アムンセルはそれには及びませんと両手で制す。
 王は立ったまま、息子の頭を指差した。アムンセルはすっと帽子を脱いで、赤髪を一つに束ねていた皮紐を解いた。艶やかな真紅の髪が一瞬日の光を放ったかのように見え、王は眩しそうに目を細めた。アムンセルが目を伏せお辞儀をして跪(ひざまず)くと、頭部の中心に輝く光輪を見ながら、王は満足げに呟いた。
「お前は、本当にミュティの息子なのだな」
「はい……」
「その髪といい、瞳といい、顔の輪郭や肌の白さ、きめ細かさといい、それから能力の高さといい……全ての良い所を母親から受け継いでいる。幸運な息子よ……」
「……」私が幸運?引っかかる点もあるが、彼は微動だにしなかった。
「お前の母は美しく優しく賢かったし、その家系は武道家を多く輩出していた。文武両道の素晴らしい息子を持てて、わしは本当に幸せ者だ」
 クレオスのアムンセルに対する常套の挨拶がすむと、アムンセルは立ち上がった。玉座に戻ってよっこらせと腰を下ろすクレオスを見る。額や口元の皺が深まり、父もだいぶ年を取ったと彼は思った。
「それはそうと、お前を呼んだのはな……」クレオスはずれた王冠を両手で直しながら、アムンセルの目を見つめた。真相を確かめるときの顔であった。
「お前の小さなお姫様が、来国早々ヒステリーを起こしたという噂を聞きつけてな……」
「それは全くの根も葉もない噂です」彼は即答した。
確かに彼女は初日に自分のせいで寝付けず、転んで怪我をして、涙も流した。しかし、その日以来――まだ数日ではあるが――リィは少しずつ自分に馴れ、何事もなく過ごしている。
「ああ、イエルにも確かめての。……ただ、姫を迎えた日に、狩りに出かけるとは勝手も千万だ」
 そう言われて、知らぬ間に政略結婚を推し進めた父とどちらが勝手なものかとアムンセルは思ったが、顔には出さず兄王子の如く感情を押し殺した。
「反省しております」彼はやや慇懃(いんぎん)に深々と頭を下げた。
「まぁ良い。アムンセル。ところで、お前の思うところを申してみよ」
 王が急に本題に入ったとみえ、アムンセルは怖じた。彼は本心で物を言ったり、相手の本意を伺ったりすることを極力避けてきた。過去に恐ろしい経験をしたトラウマゆえである。背中に悪寒が走った。
「……」アムンセルは不安げに王の顔を見上げた。
「小さな妃とは上手くやっているか?」
「……はい」蚊の鳴くような声で答えた。正直、リィ・シュナ姫が突然彼の元に来てから日が浅いし、「お互いを知る」ための土俵にすら到達していないというのが、現状であった。
 しかし、王は虫の声など聞こえない素振りをして返答を待っている。
「はい」彼はこみ上げてくる胃液を宥めながら、内臓を振り絞って声を出した。王は頷いた。
「だが、お前の本心はこう思っている。なぜ、私はあの幼い子供と結婚しなければならないのだ。彼女と年齢の釣り合う年若い王子は他にいるし、一体誰の思惑なのだろうと……」
「私に確かめにくるかと思った。だが、数日待ってもうんともすんともない。お前のように賢い息子が疑問に思わぬことではないのに」
「それは……、姫のお世話に気を取られ」アムンセルの顔に戸惑いと弁明の、媚びるような表情が走る。
「姫のお守りで忙しかったからとでも言い訳するつもりか?わかっておるのだぞ。素直に聞きに来ればよいものを!」
「申し訳ありません……」父の雷が落ちて、アムンセルは萎縮し咄嗟に顔を伏せた。全身から滝のように冷や汗が流れている。
 ――勝手に決まった結婚について、自分が一番知りたいはずなのに……。
 怒声に遮られ言葉に詰まった彼は、怖気づいて一歩下がった。幼い頃の恐怖が蘇る。
「きっと、私がお前の要望を聞きもせずに政略結婚を推し進めたと思っておるのだろうな」アムンセルがうろたえているのに気付き、クレオスは語気を変え、急に改まって話し出した。
「この結婚は、リィ・シュナ姫の父君、カイザリス王が提案されたものだ。王子の中でも優れたるお前と是非とも結婚させたい、と仰せになったのだ」
「カイザリス王が……」俯いていた彼はさっと顔を上げた。
「しかも、姫のお世話に関しても、将来の夫となるお前に任せたいとおっしゃっておる。どうやら王は、次の時代にこの国の舵を取るのは、お前だと思っておるようだ」
「まさか。それはありません、父上。私は第二王子。王位継承権も低い」アムンセルは強く首を振った。
「いや。私の一存で、次王に任命することもできる」
 異国の王ですら気付いた王子の才覚を自分に見抜けないわけがなかろうと、彼は顎を逸らせひげに触れた。アムンセルは、父の言葉にショックを受けて目を見開いた。
 ――今の言葉は、何かの聞き違いではなかろうか?
 兄王子のファルクムや彼の王子達を差し置いて、身分の低い側室を母にもつ自分を――しかも、滅びの王となる、とまで言われている自分を――次王に任命するなど、狂気の沙汰だ。絶対に周りが反対する。
 第一、カイザリス王とは面識が全くないのだ。ロアムにおいて特別な功績があるわけでもない自分の噂が、海を隔てた大国の王の耳に届いているとは考えにくい。
「カイザリス王はその昔、ロアムに留学されたこともあった。この国に愛着もあるはずだ。大事な一人娘を預けるとは、そういうことだ」
「一人娘なのですか?」アムンセルは驚いて口を開けた。
「うむ。王に娘は一人しかおらぬ。昨年、隣国から嫁いだ第一王妃にようやく王子が生まれたそうだ。数年前には側室に王子が生まれたが、こちらの母は身分の低い貴族の娘だ。王にはなれまい。男親にとって女の子は格別に可愛いものだからな」
「であるから、お前は姫を大事にお世話して、立派なレディに育て、妻として愛さねばならぬぞ」
 王はそこまで言うと、自分の頭を人差し指で差した。それは、アムンセルに髪を結わえろという指示であった。アムンセルがそそくさと髪を纏(まと)めて縛り上げ、帽子を目深に被ると、彼は手を叩いて従者を呼んだ。アムンセルは、着た時と同じように深々とお辞儀をし、踵を返して退出した。
 ついに彼は、自分に一般市民となる選択権が無くなったこと、すでにそのような選択肢など無かったことを父に問い合わせることが出来なかった。というよりも、そんな機会は与えられていなかったのである。
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