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転生王女と赤い薔薇(The Spell of VELSAMORE)

歯車庶民の王女転生譚。そして世界の神に……

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+33+ 予想外な夜這い人

転生王女と赤い薔薇

 ジュナイが戻ってくると、私はソファーに横になり、足を伸ばしていましてよ。とてもだらしがないのだけれど、散歩から帰ってきて長いこと拘束されていますし、そうも言ってられないくらい疲れているんですもの。
「私も寝たいんだけど、明日じゃダメ?」お腹もすいているけど、まあ食事は我慢するとして。
「うーん。駄目ですね。僕のモチベーションが下がらないうちに済ませましょう」
「はあ」
 ここで選手交代。また、小説とは勝手が違うのだけれど、ここからはジュナイの説明になるようね。余談だけれど、前世の小説では、姫が素早くお水を飲ませてあげて、船長が限界に挑戦しながら続きを話すのだけれど。お茶を沸かすまで待たせたらこの様よ。その点は、船長ラブなおポンチ姫を評価するわ。

「さあ、お待たせしました。続きを話しましょうか」
 仕切りなおしに、ジュナイは少し微笑んだ。いつもの道化師も今宵ばかりは鳴りを潜めている様子だ。
「我々の先祖、我が祖とその娘が流されたという地獄之髑髏島(じごくのどくろとう)――またの名をヘルスカルアイランドといいます――は、世界の最果(さいは)てに位置していました。三大陸から気の遠くなるほどの距離があるだけでなく、島を取り巻く潮流(ちょうりゅう)も激しい上、暗礁(あんしょう)なども無数に存在し、当時の船ではたどり着くことが非常に困難でした。ましてやそこから脱出しようなどとは到底不可能でした。断崖絶壁(だんがいぜっぺき)に一箇所、島の内部に続く洞窟があり、そこから島に至った父娘(おやこ)は、惨憺(さんたん)たる有様に目を覆ったのです」
「ヘルスカルアイランド……その名の通り、ここに漂着した者達の骸(むくろ)が至るとこに斃(たお)れておりました。おおかた、船団からはぐれた一隻の船がこの島にたまたま漂着(ひょうちゃく)したのでしょう。瀕死の者は岩浜で間もなく息絶え、運よく生き残った者達も島の食糧を漁り続けてそれが無くなってしまうと共食いを始めた、と推察される骨の記憶が四方に散らばっていました。多くの屍(かばね)に歯型と石器で削り取られたような跡が残っていたからです。ただ、我が祖達が着いた頃には、その島に生きている者はおりませんでした。おそらく、数百年の間に点々と、そして偶然にその地に流された者の最期の姿を見たのでしょう。」
「漂着者達が飢えと共食いで死に絶えてから、すでに百年は経っていたようです。ヘルスカルアイランドには、父娘二人が生活するには十分な食べ物がございました。それらは決して美味(びみ)ではありませんでしたが、彼らは飢えをしのぐためそれなりの工夫をして食べ続けました。孤島には、短い芝の草原、立ち腐れた木々の隙間から生えている細い若木が、やっと小さな芽をつけているほどだったといいます」
「我が祖と彼の娘は、長らくそこで食べ物をとりながら暮らしていましたが、恐ろしいことが近づいてくるのをふつふつと感じておりました。ある時、我が祖は娘に島中を見てくるように言い、他に人間がいないかどうか、探してくるよう命じます。娘が戻ってきて首を振ると、再び同じ事を命じました。誰もいないと娘が言うと、父親はもう一度探してくるように言いました」
「……」
「さて、この時、我が祖は何と言ったでしょうか?」
「……え?」
「……」ジュナイは懐中時計の秒針をよんでいる。
「何?クイズ形式?」
「はい!タイムオーバー。時間切れです」
「何なのよ。それ!」私は思い切りテーブルを叩きましてよ。勢い余って手のひらが痛いわ。
「正解は私が言うのもなんですので、そこに隠れているアナタに答えてもらおうじゃないの!」と、ジュナイが右手で指し示す先のサンルームを見やると、何だか怪しい影が浮かび上がっていた。私はびっくりしてソファーから跳び上がりそうになりましたわ。
 ガラス戸を開けて室内に入ってきたのは、サイザール。この度の夜這(よば)い専門は、レッドローズではなくサイザールと相成(あいな)ったか。と思えば、続いてスクイナフも入ってきたではないか。しかもこちらのバカは、着地に失敗したと見えて、肩を痛そうに押さえている。ざまあ。
 なになになに。急に二人も増えて、三対一の四者面談になりましたが。こんな展開になるとは思いもしなかったわ。まさしく、予想GUYね(古)。
「ミス・オリビア。立ち聞きして申し訳ない。レッドローズやジュナイ殿がきちんと君に説明できているか、不安でしょうがなくてね。私がいれば、百人力さ」
 いや、痩身(そうしん)の胸を叩いて百人力だと言われましてもねえ。意外に自信過剰なんだよね、サイザールって。特に女性の前だと。
 一方のスクイナフは、ソファーにどかりと腰かけて、仏頂面(ぶっちょうづら)をしている。
「俺は……お前らがこのバカ女に余計なことを言わないよう、監視するために来た」
 はいはい。あんたはそういう役回りね。承知した。しっかり監視しろよ。まあ、これから話されることは大体予測がついているし、裏の設定だってわかっているつもりだけどね。
「さて。で、サイザール君。先ほどの答えをどうぞ」ジュナイはいつの間にかお玉を振り回している。
「ふむ。スクイナフに答えさせようじゃないか」彼がほくそ笑むのを私は見て取ったわ。
「解答権が移りました。さあ、どうぞ」スクイナフにお玉が向けられる。
「バッバカ!なんで俺なんだよ!!!」急に取り乱し、サイザールに楯突くスクイナフ。てか、質問聞いていたのか、奴は。
「それが、サイザール君に言うことですか?君より一つ年上なのに」慌てる男の顔を覗き込むひょうきんなジュナイ。
「……俺はただの監視役だ!」
突きつけられたお玉をぐいと戻そうとするスクイナフに、
「クイズマスターは私です。スクイナフ君」決してひかないピエロ。
「ク……クイズって。クイズにする内容じゃないだろ!」
「はて、どんな内容だったかな?」サイザールも腕を組み鷹揚(おうよう)に笑っている。
「二人して俺をはめようとしくさって!許さねえぞ!」
 話が進まねえな。三人いれば文殊の知恵とは言うが、こいつらバカはふざけすぎて埒が明かない。コホンと咳をすると、サイザールがようやく気が付いてくれたらしい。
「お前が答えないから、彼女がお怒りだ」
「なんだと?バカ女に怒る資格など」スクイナフの発言を遮って、私は言った。
「怒ってないわ、サイザール。でも、クイズの問題を忘れてしまったわ」
「続きは、あなたにお願いしてもよろしいかしら。ミスター・サイザール?」
 私は、ジュナイからお玉を奪い、それを王の錫杖(しゃくじょう)のようにサイザールに手渡した。
「プリンセスの願いとあらば!御意(ぎょい)!」お玉を受け取った彼は私の手を取って口づけした。
 ジュナイは急にしおらしくなり指をくわえてしょんぼりし、スクイナフは忌々しそうに舌打ちをしたけど、そんなのムシムシ。
 まったく、果てしなく長い物語になりそうだわ、と私はこの団欒(だんらん)の外の闇を眺めていた。

+32+ 胸の谷間の代わりに

転生王女と赤い薔薇

 私は特製のお茶を作ったわ。ええ、彼を待たせてね。あ、一応断わっておくけど、排泄物を飲ませるとか、どこぞの漫画のような下ネタには堕(だ)していないから、安心してね。毒を入れたか、入れないかは、私しか知らないの。彼はどういう風に飲むかしら。
 て、おい。リビングに戻ったらレッドローズがテーブルに伏せっているんだが。私は駆け寄って、彼の額を触った。高熱だわ。まったく、毒を飲ませるのも忍びない気にさせてくれる。
「大丈夫?」
 私は優しく揺り起こしてあげた。なんて、慈悲深い王女様なんでしょう。
「あ……水か……?待ちくたびれたぞ……」体が振り子のように揺れ、目線があてどなくさまよっている。ちょっとこれ大丈夫なん?医者はおらんのか?まあいい。
「はい。どうぞ。私の特製のお茶です」レッドローズは湯呑に触れて手を引っ込めた。
「熱いじゃないか。でも。……ほう。いい香りだ」
 あ、あ、あっと思ううちに、彼はごくごくと飲んでしまった。朦朧としていて、さっきのやり取りをまるで覚えていないみたい。そんなことに頓着する余裕すらない体なのだろう。彼は飲み干すなり、ぐったりとソファーに凭れこんだ。これで毒を盛っていたら、彼は即死で、死を覚悟した私の願いはすでに成就したわけだけれども……。

「ふむ。お嬢、グラナトに何を飲ませましたかな?」
「わ!びっくりした」声のする方を振り向けば、そこにはあのピエロがいた。ジュナイだ。
「こちらが訊きたいくらいよ。どこから来たのよ?」
「ふふ。また質問を質問で返す。人間らしいお方だ」
 ジュナイは、レッドローズの手首に自分の指を押し当てていて、脈を測り終えたようだった。異常はないと見たのだろう。
「オリビアお嬢が飲ませたのは、眠り薬ですかな?彼を眠らせて、逃げようとでもお思いになったのですか?」眼鏡の奥の瞳を光らせて、彼は言及する。
「ふん。そんなことをしたって、あなたがいたら逃げられないでしょう」
「へえ。なぜそうお思いで?彼に訊いたのですか?」
「……あなたは言の端を捉えてくるから、嫌いよ」
「嫌いで構いませんが、何を飲ませたのです?毒ではないようですが」
「毒よ」
「え」
「でも、死ぬような毒じゃないわ。微量だから。たくさん飲めば、副作用はあるでしょうけど」
「といいますと、やはり……薬ですか」
「まあね」
 私の常備薬だ。ミスリルローブの魔石のブローチに忍ばせてあったのだ。もともとは、上級魔法使いが敵国に捕らえられて拷問により自白を迫られたときに自害するための毒薬を入れておく所なのだけれど、エドガーお兄様が物騒だからといって、鎮痛剤に替えたのである。私の胸の谷間代わりってわけ。
「お兄様のおかげで、レッドローズの痛みは和らぐわね」
痛みが消えたので、心が落ち着いて眠り込んだようだが、私は彼が戦々恐々としながらお茶を飲むところが見たかったのだけれど。
「ほう。それは助かりましたな」
「まあ、そんなに長くはもたないわ。この薬の効き目はとても優れてはいるけれど、呪いの傷には訊かないもの」
「呪いの……傷。はて、そんなことまで、オリビア嬢にお話ししましたっけ」
「あら、私、そんなことを言いましたっけ?オホホホホ」手を口の脇に添えて誤魔化すように笑ってみる。やばい。ひやひやするわ。
「……。まあ、良いでしょう。私はこれからグラナトを寝室に運びます。その後で、続きをお話ししましょう」
 ジュナイは、両手のひらをレッドローズに向けて力を込める。すると、男の体が浮き上がった。それをゆっくり回しながら、体を伸ばし横たえると、慎重に寝室へと運んでいく。ドアですら、ジュナイの一睨みでバタンと開くのだから不思議である。

+31+ 毒を盛りますか?

転生王女と赤い薔薇

「話はわき道にそれたが」
「……」私はむすっと仏頂面をして見せたが、軽くスルーされたわ。
「君たちの祖先ヴェルサーモロが、英雄の誉(ほま)れによって王国の創始者になったのに比(ひ)して、一緒に戦い世界を救った“我が祖”は名前をも抹消(まっしょう)され、我々異端(ヘレシー)と罵(ののし)られる者たちの祖先となった。どうして、俺達が異端(ヘレシー)と呼ばれているか、知っているか?」
「イイエ」ぶんぶんと首を横に振る私。
「ふん。知ってそうな面をして嘘をつくな。まあいい。それはな、俺達が悪魔の契(ちぎ)りを連綿(れんめん)と交わして、子孫を作り続けてきた化け物だからさ」
「悪魔の契り?」
「本当に知らないのか?お前は顔で損してるな」
 なによ。ひどくない?さっさと話しなさいよ。と、思わず言いそうになったけど、ここはぐっと堪えて、相手の言葉を待った。レッドローズも私の反応は意に介さないらしい。間をおかず語りだす。
「ヘレシーの口承(こうしょう)では、彼ら魔術士(ヴェルサーモロ)と巫術士(わがそ)は親友だったという。世界を治める戦いが終わった後、――それは北端の氷塊(ひょうかい)の上で決着が着いたというが定かではない――、二人とその仲間達は意気揚々(いきようよう)と帰りの船に乗り込んだ。だが」
 レッドローズは息をつめた。私も腰かけなおし姿勢を正した。
「その帰途で、“我が祖”は船から突き落とされた。彼の娘と共に」
「何者かによって我が祖は海に突き落とされた。彼ら親娘(おやこ)は溺れかけながらも、運よく波間に漂っていた板切れに縋(すが)りついた。強い潮の流れに乗って、ようやく辿り着いたのが、絶海の孤島。ヘルスカルアイル……」
 彼の声は重く沈み、所々息を切らしていた。額には玉のような汗が浮かんでおり、テーブルに両腕をついていたレッドローズは、ついに突然首をがっくり垂れた。
「OH(オウ)!?」
 待て、私。変な声出すな。OH!?とか、外人かお前は。予期していたことだというのに、いきなり人が失神すると、慌ててしまう。私は飛び上がると右往左往して、外に助けを呼びに行こうとした。だが、レッドローズは意識を取り戻し、私の腕を掴んだ。
「すまない。水を持ってきてくれないか……」彼はかすれた声で言った。
 ああ、だからお茶を用意しとけって、言ったのかしらこの人は。
「いいですけれど、毒が入っているかもしれませんわよ」
「……ふむ。そうかもしれないな」
「そうよ」
 今なら、余裕であんたを殺れるわ!あそこに花瓶だってあるし、あの絵画を壁から外せば額縁も鈍器になるわ!
「だが、お前の目は爛々(らんらん)としている。良く知っている好奇の眼差しだ。俺たちを見世物にしたときの人間の目だ。もっと知りたいだろう?この話の続きが。自分がなぜ、こんな辺鄙な里に連れてこられたのかを。俺を殺せばわからなくなるし、ついでに言えばあんたも殺される」
「私が逃げられないとでも思っているの?」
「ジュナイがいる限りはな……」
 うっ。なるほど、そういうわけね。それで、彼を私に引き合わせたのね。賢しい男。レッドローズを侮るなってことか。ジュナイの能力には――まだ、確かなことは言えないのだけど――私も気を付けなきゃいけないわ。
「仕方がない、水を持ってまいりますわ。……けど、だからと言って、私が毒を盛らないかは、断言できませんよね」
「ふふ」レッドローズは私の言いたいことがわかったのか、口元に笑みを浮かべた。
 今は笑っていられるかもしれないけど、私が彼を殺す可能性はゼロではないのだから――それくらい私は憎んでいるのだから――、彼だって怖いはずよ。その度胸を試してあげようではないの。

+30+ 二人の救世主

転生王女と赤い薔薇

 夕闇が迫り、蝋燭が一本追加された。長さの違う二本は、各々一筋の煙を立てながらじりじりと燃えている。薄暗くお互いの顔は良く見えなかったが、吐息はほんのりと感じた。
 レッドローズの話は、神話の時代にまでさかのぼっていた。
「ドラコ、ペガスス、ポエニクスといえば、この世を占める大陸の名であるのはわかると思うが、神代(かみよ)の壮絶な戦いによって、これらの大陸が生まれたという神話は知っているな」
「ええ。でも、それは“神話”だけどね」
 うん。まあ、この世界は私の考えたファンタジーだから、神話も事実足りえるんだけど。そこは言わないでおく。
「ああ。大陸誕生の日は、人類のいなかった時代のことだ。この神話は文学的に価値があるかは別として、事実かどうか確かめようのないことである。むしろ、事実ではないという意見の方が多い。だが、その問題は伏せておいて、……これらの大陸が一度海に沈みかけたことがあるというのを君は知っているか?」
「大体千年前に、海底で地震が頻発して大陸が沈みかけた、という記録が残っているのは知っているわ」
「その時、一人の魔法使いが大陸の沈下を防いだ、と次のくだりに書いてあっただろう」
「ええ。家庭教師に教わったわ」
 よく諳(そら)んじていたもの。転生者と自覚しながらも、この世が自分の想像の産物であるという認識に覚醒する前、のんびりと生きていたものだわ。あの頃に戻りたい。
レッドローズは真剣な顔をしている。なるたけ、表情に出さないよう努めているらしいが、体がこわばっていくのを隠しきれていない。興奮気味に彼は息を継いだ。
「その魔法使いは、海の水を一箇所に集め大陸が全て沈んでしまうのを防いだ。そしてもう一人、大陸の精霊達の怒りを静めるための役を負った者がいた」
 蝋燭の炎は激しく揺れ、亡霊のような空気の揺らぎが出来た。背中がうすら寒い。
「その者こそ、“我が祖”。今は名前すら忘れ去られてしまった哀れな“我が祖”は、我々一族を作った始まりの人間だ」
 彼はことさら“人間”を強調して言った。私は得体の知れない不安に襲われた、ふりをしたわ。よっ、演技派女優!レッドローズは、私の不安(演技)を感じ取ったのか、自分の興奮を和らげるために話を少し逸らした。
「魔法使いの英雄は、オリビア、お前も知っての通り、ペルセウス王国城下の広場の名前にもなっている。“ヴェルサーモロ”その人だ。その五百年後には、彼の子孫のライラ・アンジェラスが女性でありながら魔法戦士団を創設した。ヴェルサーモロは、ペルセウス王家の祖であると共に、西方テイルランドの侯爵家にもその血を分けた。余談(よだん)になるが、魔法使いの血は王家よりむしろ侯爵家に受け継がれ、魔法戦士隊長が代々輩出されている」
「ええ……」
 今の王家にはテイルランド侯爵家ほどの魔力を持ち合わせた人間がいないことくらい知っている。それはなぜかといえば、理由は簡単。テイルランド家は魔術師の血を守るために、王家以上の近親交配を繰り返しているから。そのため、才長けた者もいる反面、長く生きられない奇形や異常性向な人間も多い。
 私は、シルバーの前々任隊長補佐ヒョートルを思い出した。テイルランドの領主で、ヴェルサーモロの血を引く遠戚だったが、能力はずば抜けて高かったものの性格に問題があり、隊長にはなれなかった。あの残忍なことで暗黒騎士と言わしめるシルバーでも隊長になれたのに。

「先に精霊の話をしておこうか。我々ヘレシーのほかに彼らを見ることのできるものはエルフくらいだからな」
 精霊について尋ねるタイミングを失(しっ)したので、気を回してくれたらしい。読者にとってはありがたい。本題ではないんだけどね。冗漫(じょうまん)じゃなきゃ、何でもいいんだが。
「エエ。オネガイシマス」私の片言にレッドローズは怪訝になりながらも話し出す。
「この世界は、精霊で満ちている。三大陸をそれぞれ支配する大精霊の他、万物に精霊が宿っているのだ。我々の先祖は大昔に様々な属性の精霊と契約して、力を与えられた。それが、巫力(フリョク)であり、巫術(フジュツ)の体得によって精霊の力を借りることが出来る。ただし、巫力のない人間には精霊の姿を見ることが出来ない」
「へえ。それで、ヘレシーはみんな巫術が使えるわけね」
「能力に差異はあるが、変異体のゼイガー以外は皆使える。そして、精霊は自分の体にも宿っている。属性持ちの精霊がな。俺の精霊は……」
 と、彼はここで言葉を止めた。私が彼の指の先を凝視しているのに気付いて、頭(かぶり)を振った。
「え?なに?どうしたの?見せてくれないの?」
 炎の精霊なんでしょ。ここで蝋燭の炎を七色に変化させたり、炎の大きさを自由自在に操ったりするのを見せてくれるはずなんだけど。
「やれやれ……。誰も見せるなどと言ってない。このことは話さなくていいことだ」
「えーどうしてー?」
 なぜに?
 なぜにそこも小説と違う?意地悪設定。ハードモード。スクイナフみたいなツンデレタイプはもういらないからね。

+29+ 始まりの予感

転生王女と赤い薔薇

 しばし、惰弱(だじゃく)な沈黙の後、気を取り直したレッドローズが発言した。
「ともかく、謝っておこう。お前をここへ連れてきたこと。それから、ひどく待たせたことを」
 先にそこを謝ってほしかったな。後の祭りではあるけど。
「でも、悪いとは思ってないんでしょ?」
「え?」
「私をだまして連れてきたのは謝るけど、悪いことはしていないと思っている。確信犯だわ」
 彼は彼の信念に基づいて、私を誘拐したってわけ。それは知っている。だけど、その理由が小説とそのままかどうか、確認しておく必要はあるわ。
「そうだな」彼は肯(うなず)いた。
「うむ。そこから説明する必要がある。牢に閉じ込めたことは悪かったと思っている。シンシアに言われたからでなく」
「そのことはもういいから……」彼女(シンシア)の絶大な影響力が伝わってくる分、彼(レッドローズ)に幻滅してしまう。
「ひどいことをしたが、あんたの、いや“お前”の協力が必要なのだ」
 そこ。あんたをお前に言い換える必要がある?どっちも嫌なんだが。つーか、誰かに言わされている?

 サンルームからの日差しが薄くなり、部屋は少し暗くなった。明かりがあるから大丈夫だけど。長い話になるのだろうと思うと少し鬱になる。
 違う角度で蝋燭の光があたり、彼の頬がつやをなくしてこけているのがわかった。さっきから声も弱弱しいので、彼をあまり責めないであげたいとは思う。私ったら心優しい王女様だわ。
「まず、お前はどこまで知っているのだ?」
「え」
「散歩から戻ってきて、さっきジュナイに聞いた。お前はあれを見て何も驚かなかったと」
「ゼイガーのこと?」
「ゼイガーはベイスン以外では見ることが出来ない。ヘレシーの研究機関があるブレイブタウンでも極秘扱いされていて、変異体の存在を知る者はわずかだ。王族の者ともなれば、その存在自体を知らないこともないのかもしれないが、お前は実際に目の前にしても驚かなかったと聞いた」
 ふうん。やはり、そういうところが気になるんですか。おちゃらけ専門のジュナイ含め、抜け目ない一族だこと。でも、私の方が一枚も二枚も上手なはず。だって、この世界の原作者なんですから。
「私があの赤い生き物を見て驚かなかったと、ジュナイさんがおっしゃったんですか?それは、間違いだわ。表面的にはそう見えたとしてもよ。彼が農園の赤い牛を指差して、『僕たちと同じ仲間だ』なんて言った時には、本当にたまげましたもの」
「ほう。なるほど。では、ヘレシーの歴史についてはどのくらい知っている?」
 どのくらい、と言われても、話していいこととよくないことの区別がつかない。彼の癇に障ることは、なるべく言わない方がいい。ローマの格言曰く、沈黙は金だもの。
「ほぼ知らないと思うわ。私は専門家じゃないし、王女だからといって特別な教育は受けていないの。特に歴史は得意な分野ではないし。私がヘレシーについて知っているのは、王国の標準的な教科書に書いてあるようなことだけよ」
「では、誤解も多分にある、という認識はあるのか?」
「まあね」そんなことがあるとでも?と思いながら、私は嘘をついた。
「わかった。俺たちのことを説明するのは極めて時間を要することだが、今回の件との関わりも非常に深い。ヘレシー歴史を交えて、君に話さなければいけないことがある。それから、なぜお前をさらったのかということもはっきりさせておかないといけないな」
 ごもっともです。さっさと、ちゃきちゃき説明しておくんなせえ。
 男は椅子に深く腰掛けなおした。私は始まりの予感がして、レッドローズの顔を見つめた。

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